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匂いと文化

メニハ ミエヌトモ

パルコで「におい展」が開催されていたので行ってきた。

良いにおい、臭いにおいが展示してあって実際に嗅げるというこの催し物、何と大目玉は「シュールストレミング」が嗅げるという、私にとっては願ったり叶ったりの催し物であった。

シュールストレミングとは主にスウェーデンで消費・生産されるニシンの缶詰で、「世界一臭い食べ物」とされている発酵食品だ。

日本で臭い食べ物といったら「くさや」が挙げられるが、シュールストレミングはその比ではないらしく、とにかく「臭い」という話だけはずっと聞いていた。

缶は膨らんでいて開ける時は野外がおすすめ、しかも缶切りで刺した所からプシューっと中の液体が外に噴射され、しかも服に液体が付いたものなら匂いが取れないから開ける人は服の上からゴミ袋などを被ったほうがいいなど、読めば読むほど気になる存在であった。

インターネットで検索をするとシュールストレミングを食べる会が東京辺りで開催されていたらしく、羨ましくて仕方がなかったのだが、わざわざ新幹線で行くのもなあ、それよりだったら買っちゃおうかなあ、でもどこで開けよう、などとウジウジとAmazonのシュールストレミングのページを見てはため息をついていたのだから、今回の「におい展」が私にとってどれだけ嬉しいものであったか想像して頂けたら嬉しい。

せめて匂いだけでも拝みたかったのだ。

さて、におい展には私にとって非常に興味深く、そして感動し、あわよくばもう一度行ってゆっくりと楽しみたいと思わせるものだった。

良い匂いからは花の香りなどが主にあり、あとは強いと臭いけれど薄めれば良い香りという動物性の香り、そして臭い匂いには靴下や(匂いの強い)発酵食品などが展示され、他にもフェロモンってどんな香り?や加齢臭などがあり、会場内はとても賑やかであった。

さて、臭い匂い代表として選ばれた発酵食品は日本の「くさや」、台湾の「臭豆腐」、そして「シュールストレミング」の3点。

「くさや」は確かに臭いけれど美味しさも知っているため、私にとっては不快な香りではない。
「臭豆腐」は昔友達と台湾に行った時、夜市の屋台から異様な匂いがしていて「こりゃたまらん」と足早に過ぎてしまったその場所こそ臭豆腐を売っていた所で、今度台湾に行ったら絶対に食べてこようと固く誓っている食材でもある。

何故なら「臭豆腐は、匂いはすごいけれど美味しい」との情報を入手した事と、あれが発酵食品であると知ったからだ。

さて、約20年ぶりの臭豆腐の匂いはというと、冷たいのと恐らく蓋を開けて暫く経った事が重なって、それほど私は匂いがキツイとは思わず、「ウォッシュチーズみたいな匂い」と思ったのが正直な所。

でもこれ、温めるとすごいんだろうな。

そして高鳴る胸を押さえながらシュールストレミングの場所へと移動し、嗅いでみると・・・。

思ったより臭くなかった。

それこそ蓋を開けてから時間が経ったのと、調べてみた所、発酵食品なので商品によって匂いにバラつきがあるらしく、もしかしたら匂いが弱めの缶だったのかもしれない。

のけぞるような臭さと思っていたのだが、そこまでではなかった。期待しすぎたのもあるのかもしれない。

そして人間というのは欲が深いもので、一つ欲求が叶うと次の欲求が湧き出る事はよくある事だと思うのだが、私も例外なく次の欲求が出てきてしまった。

ああ、怖いもの見たさでシュールストレミングをほーんの少しだけ(笑)食べてみたい。

私の尊敬する発酵学者の小泉武夫先生は「発酵は文化である」と言っているが、実際に発酵食品の匂いを嗅いでいるうちに、その言葉が腑に落ちた。

食べた事は無いが、韓国に「ホンオフェ」という魚のエイを発酵させたものがあるらしいが、それは非常に匂いがきつく(何でもアンモニア臭がすごいらしい)、匂いの刺激のせいで涙をこぼしながら食べるという。(小泉先生は「失神寸前」という表現をしています(笑)。気になる方は「くさいはうまい」(小泉武夫 著)を読むことをお勧めします)

そしてこのホンオフェは高級食材として扱われるらしいのだが、きっと他の国からすれば「何でこんなものが???」となるのではなかろうか。

日本だって日常に浸透している納豆やくさやは他の国からすればもしかしたらあり得ない食べ物なのかもしれないし、チーズだって今でこそ日本に色んなものが食べられて浸透しているけれど、チーズが日本に入ってきたばかりの時はブルーチーズやウォッシュチーズは間違いなく異色な食べ物だったに違いない。

きっと人間は、慣れない「匂い」に対して受け入れない傾向があるのかもしれない。

だからそう考えると「発酵は文化」だし「匂いは文化」と言っても良いのかもしれない。

そしてずっと私が密に思っている事は「匂い」は生命力を表しているのではないか、という事。

だから気になるのだ。

昔よりも野菜の香りが弱くなったよなあとか、ここ数年前からやけに柔軟剤の種類が増えて、体臭が悪者になっている事が私はとても気になるのだ。

昔ハーブやアロマの仕事をしていた時、勉強のために色んな「匂い」についての本を読んでいて、人間の無意識による嗅覚の凄さに感動した事があったのだけれど、例えば自分に合ったパートナーを探すとき無意識のうちに判断している基準の1つに「匂い」がある。

自分にとって「好きな匂い」の人を選んでいるのだが、その「好きな匂い」というのは子孫を残すために「自分の遺伝子とは違う」匂いであるとか、加齢臭はお年頃の娘がちゃんと父親から離れ自分のパートナーを探すためのものであるとか(いわゆる「お父さん」の匂いが嫌いになる時期があって、そしてそれはとても大切な事でもあるってこと)。

だから、強い柔軟剤の香り(しかも長持ち)や洗剤の匂いのものばかり使っていたらパートナーはちゃんと探せるのかな、とか、そんな事をぼんやりと考えてしまうのだ。

匂いは生命力。

話はそれたが、発酵食品も菌の種類によって出す香りが違う。

さて今日は納豆の事について少し。

納豆が有名な所といえば何処を思い浮かべるだろう。
水戸納豆の言葉は有名なので茨木と答える人も多いだろうが、実は秋田の横手も発祥の地の中の1つになっている。

どこが早いか遅いかそれとも伝わったのか諸説あると思うのだが、それはさておき、秋田の角館にある「角館納豆」というメーカーの納豆を食べた時、納豆の匂いが強くて驚いた事がある。(そして美味しかった)

匂いが少ない納豆などが出回っている中、逆を行っていて、その貫き加減に感動したのだ。

で、秋田には納豆汁と言うものがあるのだが、ある時せっかくなのでその角館納豆を納豆汁にしてみたのだが、なんとも強い納豆の匂いが絶妙なバランスに変わったのである。

ご飯にかけても勿論美味しいが納豆汁にする事によって美味しさが匂いと共に際立つなんてすごいじゃないかと、それ以来角館納豆のファンになったのは言う間でもない。

しかも秋田県の納豆はひき割り率が高い。

これがまたご飯に絡んでいいんだなー。

因みに納豆菌は菌の中でもダントツと言っても過言ではない位、強い菌。

0-157の菌だって寄せ付けないのだ。

だから食中毒が増える季節や、「これ食べちゃって大丈夫だったかなあ」という時は納豆を食べると良いらしい。

今は「腸まで届く乳酸菌」というヨーグルトなんかも増えてきているけれど、多くの乳酸菌は胃酸で死んでしまう中(けれどもそれらの死菌は腸内に入った時善玉菌のご飯となり、善玉菌の活力の元となるので問題はないが)実は納豆菌は胃酸にもめげずに腸内にたどり着く菌なのである。

でも結局腸内は酸素がないので、いずれにせよ腸の中で死んでしまうのだが(そして善玉菌のご飯になる)、胃酸を通り抜けるとはなかなかの強者だと思う。

血液もサラサラにするしいい事ずくめの納豆であるが、なんせ強い菌なので味噌作りや醤油作り、酒造りには嫌われているのは悲しい所。

どんな存在も「良い」も「悪い」も併せ持っているのだよな、と思わずにはいられない。

今回の「におい展」でもやはりそのような事を思ったのだが、顔をしかめるような強い匂いが薄まると人を魅了するような香りになり、それは食べ物や薬にも言える事で、いくら良いものと言われていても度が過ぎると毒となる場合はよくある事。

そしてある人からすれば好きでたまらない物でもある人からすれば嫌な物だったり。

全てはバランスなのだなあと思うし、物事や出来事などは球体だな、とも思う。

どの部分を見るかで捉え方も変わってくる。

そんな事を改めて思いつつ今回はこの辺りで。

さてこちらの発酵コラム、次回で最終回です。

どうぞよろしくお願い致します!

カヲリグサ

カヲリグサ

目には見えないけれど、確実に存在するもの。
その中の1つに発酵があります。
発酵を通して見えてきた、私なりの解釈と世界観です。

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