当番ノート 第52期
週末になると、車にテントとタープ、バーベキューコンロ、アウトドアテーブルにチェア、ダンボールいっぱいの炭とランタンと油、それからクーラーボックスを詰めこんで、まだ陽も昇りきらない時間に家を出る。 小学生のころ、キャンプは恒例行事だった。 車酔いがひどく、後部座席でビニール袋を口にあてながらじっと丸まっているのがわたしの常だった。 高速道路を走っている間じゅう、母は助手席で《夏が来る》を機嫌よく歌…
お直しカフェ
前回に引き続き、オンラインでのワークショップ開催に際して、ちくちくとお繕いをしながらぽつりぽつりとおしゃべりしたことをお披露目します。今回は、片付けコンサルタントの大浪優紀さんとの対談。この時、それぞれ手元で、大浪さんは布巾の穴を、私は靴下の穴をお直ししています。 === 大浪優紀(以下、うき):お片づけの依頼は女性からが多くて、9割方ファミリーのひとたち。元々ご夫婦とも自分のモノが多くて、子ども…
鍵を開けて 詩人が「しょぼい喫茶店」に立った日々のこと
だれかの話を聞くのが好きだ。より正確にいうと、だれかに話される話を聞くのが好きだ。 同じじゃないかと言われそうだがすこし違う。「話を聞くのが好きだ」というとなんだか聞き上手的な、コミュニケーションがうまそうな、そんでもって友達なんかもいっぱいいそうな感じがするが、わたしはその点はてんでダメなので誤解しないでもらいたい。基本的に会話全般のことはそこまで得意でもない、むしろ苦手なほうだ。雑談の話題に困…
当番ノート 第52期
子どもの頃、身の回りに、よく怪我をする人が数人いた。何針縫ったとか、どこを骨折したとか、そんなことはその人たちの日常だった。私はそれが自分の怪我でないことに心底安堵しながら、その話に驚いてみせていたものだ。それが、きっとその人たちの望む反応だと知っていたから。そして、内心ではその人たちを見下していた。怪我をしないように安全に過ごせばいいのに、と。 「え、あのホチキスみたいにパチンパチンってやられる…
管理人だより
こんにちは。アパートメント管理人室です。 アパートメントでは、8月10日までの期間限定で住人さんの作品を販売するマルシェを開催しています! 現在、作品を出品してくれているのは井川朋子さん、木澤洋一さん、ひろのはこさん、Maysa Tomikawaさん、三好愛さん、もうりひとみさん(五十音順)の6名。 前回に続き、今回はMaysa Tomikawaさん、三好愛さん、もうりひとみさんのインタビューをお…
当番ノート 第52期
はじめまして Rice to meet you! 今日から月曜日の当番ノートを書かせていただきます、安部寿紗と申します。わたしは普段、お米にまつわる作品を制作しています。2019年より横浜市にある「黄金町アーティストインレジデンス」で活動をしています。 「お米にまつわる作品」とは 例えば、今やっているのは、近くにある「日の出湧水」のお水で稲を子育てに見立てて育てる「日の出湧介くん」、毎日定時に(朝…
当番ノート 第52期
貝殻に耳をあてると、海の音がする。 母はそういうことを平気で言う人だった。 友だちと喧嘩をして泣いて帰った日も、図工の時間にじょうずに描けなかった日も、ポートボールで補欠になったときも、母は海で拾ったタカラガイやクモガイをわたしの耳にくっつけた。そうすると周りの音はもやがかかったようになって、さあさあ、とか、ごうごう、とか、プールに潜ったときのようなくぐもった音がする。 貝によって音がちがうの…
当番ノート 第51期
この連載が始まった頃はまだ、陽気のいい日が続いていたと思う。緊急事態宣言が解除されたばかりで、まだまだ不安な日々が続いていた。「今日の感染者は何人なんだろう」「明日はどうなるだろう」まずは目の前にある不安に目がいってしまって、二ヶ月先のことなんか考えられやしなかった。 あれから二ヶ月経ったけれど、状況はあまり変わっていないし、梅雨もまだ明けていない(七月二十九日現在)。自分の生活の些細な部分に目を…
管理人だより
こんにちは。アパートメント管理人室です。 アパートメントでは、8月10日までの期間限定で住人さんの作品を販売するマルシェを開催しています! 現在、作品を出品してくれているのは井川朋子さん、木澤洋一さん、ひろのはこさん、Maysa Tomikawaさん、三好愛さん、もうりひとみさん(五十音順)の6名。 今回は、その中から井川朋子さん、木澤洋一さん、ひろのはこさんのインタビューをお届け。制作の背景やイ…
当番ノート 第51期
最後に話すのは、あの子のはなし。 毎朝、8時半には家を出て行くし、夜は早めに帰ってきて、帰ったらシャッターを開ける。洗濯物は大胆に干しているけど、下着が干されているのはみたことがない。 彼氏はそんなに背が高くないけどおしゃれな人で、ちょっと長髪。私が引っ越してきてから何度か見かけているから、誠実に3年は付き合っているんだろう。 部屋で騒いだり、うるさくすることもないけど、たまに小さな話し声や笑い声…
かさねのせかい はざまのものたち
はざまのものたちが撒いた タネはヒトから芽吹いても 育つことができないこともある タネが芽吹くと ヒトは毎日ユメをみる憶えていないのは タネがヒトの虚(うろ)に落ち 溶けてしまったから はざまのものたちは それでも 好んでヒトにタネをまく
当番ノート 第51期
降り続いた雨の果てに、夏空が見え隠れしています。もうすぐ8月ですね。もがくように生活し、思うようには書き進められなかった2ヶ月間の連載。とうとう最終回です。私の文章はあなたの目にどんな風に映っていましたか? アパートメントで書いてみたいと願ったのは、実は今ではなく、2年前の秋でした。他人と他人とが、ふしぎに共存している空間に、読者としての居心地の良さを覚え、私もここで書いて自分の中のなにかを変えた…