当番ノート 第49期
朝が苦手というよりは、夜のことが好きすぎるのかもしれない。人びとがみな寝静まっていて、気配がない。守られた部屋の中で、この惑星の中でたったひとり、わたしだけが起きているような錯覚。朝よりも、昼よりも、自由をゆるされているようにもおもえる。わたしをとがめるすべてのものも、きっと眠っているような気がするから。 家で仕事をするようになってから、前よりももっと起きるのが下手になった。身体がベッドの底に沈ん…
当番ノート 第49期
あたりまえがあたりまえになったのって、いつからだった? *** ふと、すごくびっくりした。 「心のなかで何かを思ったり考えたりしてるとき、内側で話している声は、どこから聞こえてくるんだろう」 初めてこのことを不思議に思ったのは、たしか幼稚園生くらいの頃だったと思う。 「ねえ、鹿ちゃんはしゃべってないのに、鹿ちゃんにだけ鹿ちゃんの声が聞こえるのは、なんで?」 「それはね、鹿ちゃんが心のなかで『思って…
当番ノート 第48期
2か月間続いた「当番ノート」を通して私は、公の場ではじめて、インド音楽に関する自身の体験や視点、考え方を言葉で表現した。 この音楽を習い始めて日が浅い私にとって、それは大きな挑戦であった。知ったかぶりで音楽について語ることは、師匠やそのまた師匠たちにも、真剣に音楽をやっている人たちにも、音楽そのものに対しても、無礼に当たると思ったから。 それでも、今の自分に書けることを文章にしてみようと決心したの…
当番ノート 第48期
前回までのあらすじ 大いなる王の遺産を巡るROXの冒険は最終局面を迎えていた。覇王龍道拳の免許皆伝となったROXは師であるジャッキーのもとを訪ねる、するとそこにはジャッキーの変わり果てた姿があったのだ。そこには血染めのダイイングメッセージが。「楊チェンに気をつけろ」ジャッキー最後の言葉を胸に秘め、怒りに震えるROXはチェン打倒のため上海へ向かう。そしてチェンと対峙、いよいよROXの長きに渡る冒険に…
長期滞在者
年末の帰省に合わせて、和歌山県新宮市を1泊2日で訪れた。中上健次の枯木灘の世界に少しでも浸かることが目的だった。 12月26日の夜、東京から夜行バスに乗り、早朝名古屋に着く。 名古屋駅の構内はどこも店が空いておらず、5時半に開店するマクドナルドの前には長蛇の列。外は中々の寒さでコーヒーが飲みたくなったので、私も並ぶ。何をするでもなく1時間ほど店に滞在して名鉄バスセンターへ向かう。 事前に計画してい…
当番ノート 第48期
これまで、主に私自身の経験を例に挙げながら、インド音楽を学ぶにあたり、師を絶対的に信頼したうえで師から直接教えを受けとることの重要性について陰に陽に何度か言及してきた。 良い師に出会うこと、そして師と持続的に良好な関係を築くことはとても難しい。すべてを委ねることのできる師が存在し、不安や不満を感じることなく練習に集中することができるというのは、本当に幸せなことである。 「グル・シシュヤ・パランパラ…
長期滞在者
心の中がクリアでなければ先のことなど見えないと思っていた。 2019年11月23日、24日、私は東京国際フォーラムB7・B5で開催された日本最大級のデザインカンファレンス「DesignShip2019」で司会をしていた。デザイナーたちの様々な物語が語られた2日間のトリのKeynoteスピーカーとして登場した、レイ・イナモト氏。ニューヨークを拠点に世界を舞台に活躍しているクリ…
当番ノート 第48期
こんにちは映画好きな皆さん。僕です。ロックスです。ところで皆さんの中にはきっと月に何回も映画館に行く、という方も多いはず。映画館という箱は21世紀になっても、「携帯はオフ」「話すな」「静かにしてろ」「トイレいくな(行ってもいいけど行きづらい)」、およそ120分間、五感をすべてスクリーンに集中し、一つの作品に没頭できる、そんな唯一無二の箱でございます。 映画館で映画を観るのが好きな方なら一度は「映画…
長期滞在者
自宅は単に仕事を終えて寝るための場所と割り切って、ひたすら仕事場の近くに居を構えていましたが、ついこの間電車で30分ほど離れた郊外の街へ引っ越しました。近郊農業の盛んなところで、目の前には広大な畑が広がる、のどかな風景の中で生活を始めたところです。 それまでは、駅の改札を出た瞬間、ありとあらゆる肉が焼ける匂いに包まれ、ほろ酔い千鳥足の人波をかきわけながら、たどり着く我が家は2分ごとに高速で通過する…
当番ノート 第48期
ムンバイーの先生の家に滞在していた頃。ある日、友人に誘ってもらい、アンナプールナー・デーヴィーのドキュメンタリー映画の試写会に行く機会を得た。 アンナプールナー・デーヴィーは、2018年10月に亡くなった偉大なインドの音楽家である。スルバハールという弦楽器の奏者だった。 「マイハール・ガラーナー」という流派の祖であるスィタール奏者アラーウッディーン・カーンの娘であり、アラーウッディーン・カーンの弟…
Mais ou Menos
ぴちゃん 明けましたね!2020年がスタートとなり、もうすでに半月がすぎようとしているのを思うと、すこしゾッとするね。 去年は私にとって、自分の病気や、これまでの生き方、考え方の癖と向き合う必要がある年でした。自分の心と体の状態をきちんと観察して、「無理しない」ことを学んだ一年になりました。今、これまでの人生で一番気持ちが楽なの。 自分の性格の良いところも悪いところも受け入れているし、過去のつらい…