当番ノート 第22期
たとえあの子が消えても、私がその子の代わりに愛されることはなかったのだろう。 とにかく嫌いなものが多いと非常に生き辛い。 思春期の私といえば今に比べて「嫌い」が多く、また周りも等しくそうだっただろう。いろんなものや人を、容易に許せない。顔が、声が、態度が、話し方が、先生に褒められるあの子の得意顔が、彼の染めた髪が、規則に従順な彼女の長いスカートが、彼の好きな彼女が、みんな「嫌い」塗れである。他者に…
当番ノート 第22期
#7 夢の解釈について(2) 〈 私はある植物について論文を書いた。その著書が私の前にある。私はちょうど、一枚の折込みの色彩図をめくっているところである。植物標本集からとってきたような、乾燥した植物の標本が、一冊ごとにとじこまれている。 〉 これはフロイトが自身の見た夢として報告したものだ。この夢を見た日の朝、彼は「シクラメン科植物」というタイトルの、この夢の論文に関係するらしい書物を見たという。…
長期滞在者
二十年以上前の話、二十四、五歳頃のこと。必要があって初めてカメラを買うことになり、当時働いていた中津カンテGのK氏に相談した。K氏はその当時からカンテのメニューや広報物のデザインワークを担当していた人で、写真やカメラのことも詳しかった。 どういうカメラを買ったらいいかまったくわからないド素人の僕にK氏は一から懇切丁寧に教えてくれたのだが、当時僕は「一眼レフ」という言葉すら、聞いたことはあってもどう…
当番ノート 第22期
早いもので、この連載も残すところあと1回となりました。 今回はデジタルでイラストレーションを描いていて思ったもどかしい部分を。 前々回ぐらいに記事を書かせていただきましたが、木鳥worksさんからさそっていただき、谷町6丁目の整体院「草枕」さんの店内の壁に絵を埋め込んでいただきました。その時の発注ですが、壁に埋め込むもの、額の中に入れるものと直接壁に絵を描くものそれぞれを発注いただきました。額や壁…
当番ノート 第22期
1975年、愛知との県境にある、岐阜県の山奥で僕は生まれました。 僕が幼い頃住んでいた家は、小さな山の上にある一軒家で、何代も続いた旧家でした。 藁ぶき屋根に五右衛門風呂、火鉢まであるという、江戸時代のような住まいが僕の原風景です。当時はアスファルトの道路もなく、一番近い店まで歩いて30分かかりました。 母親が嫁いできたばかりの頃、深夜人が近づかない裏の林に幼児がいるのを見かけ、幽霊がでたと…
長期滞在者
ルーニィで個展の相談にお見えになる方の作品を拝見していますと、ここ数年はステートメントを添えて持ってくる人がいます。個人的にはステートメントなんか、あってもなくてもどうでも良くて、口頭でいろいろお話ができればそれで十分なのですが、ポートフォリオレビューが、あちこちで開かれるようになり、その対策として「正しい受け方」みたいなことを教わっている人が多いのだと思います。正しいステートメントの書き方という…
当番ノート 第22期
阿蘇山が噴火したと、言われて、騒がれてますが、 阿蘇を経由して帰りましたが、いつもと代わりない日常が、そこにはありました。 先日、活動をはじめて丸10年が経ちました。 ありがたいことに、東北のお世話になっている方々が、ツアーを組んでくださり、 高千穂、阿蘇、山鹿、由布院と、巡っておりました。 道案内役と、神社での奉納実演。 台風や豪雨の中で、大変な中、お越しくださった皆様をお連れして。 最後は阿蘇…
当番ノート 第22期
Automne:秋。 木々の葉や果物など、様々なものが色づく季節。 山種美術館で開催中の「琳派400年記念 琳派と秋の秋の彩り」展。 季感を大切にしたこの展示には、秋の色が溢れている。 福田平八郎「彩秋」1943年。 福田平八郎のデザイン感覚は、レオ・レオニの絵本に通じるものがある。 都会的で大胆で、色彩豊かなのに過剰さがなくて、とても優しい。 秋の色は、賑やかなのに浮ついていないのが、いい。 み…
Mais ou Menos
_____________________ Pちゃん この3ヶ月間、WEBの勉強お疲れ様です。6月に新生活が始まったときには、毎日が大変になるだろうと思っていました。大変なことは、もちろんあったけれど、それ以上に日々Pちゃんが新しいことを学び、イキイキしている姿が見れて嬉しかった。今では、私がびっくりしてしまうような技術を身につけてくれ、すてきなWEBサイトづくりができるようになったこと、誇りに思…
当番ノート 第22期
– – – – – – – – – – – ◆前回までのあらすじ 架空の姉に促され、わたしは春の大地震を回想する。すると回想のなかのわたしに「どうすればいい」と訊ねかけられる。そんなのわたしが訊きたい。どうすればいいんだ、よかったんだ! わたしはずっと怒り続けていたのだ、とおもう。なにを書いたって、過去を変えられるわけでもないのに! – – – – – – – – – – – 「それで、どうする」…
当番ノート 第22期
「舞香ちゃんは結婚しないの?」と訊かれても、まず相手がいないんだから仕方ない。 ウェディングドレスに憧れたことが無かった。宇宙飛行士になりたいと思ったことが無いように、お嫁さんになりたいと思ったことが無いのである。それでも、「あの人の特別になりたい」と嗚咽しながら地団駄踏むような想いはたくさん知っている。とはいえ「君は彼女でも奥さんでもない、名前に縛られない特別な人なんだ」と言われた時、それはそれ…
長期滞在者
誰もいない森で木が倒れたら、音はするのだろうか? 聞く人がいる、とは、どういうことなのだろうか? それはつまり、鼓膜、耳小骨、その奥の蝸牛が空気振動を電気信号に変え、脳に送るということ。では、倒れた木自身は、己が倒れた音を聞いていないのだろうか? 思えばここ2年ほど、小説というものを殆ど読んでいませんでした。小説は、全ての主語が人間です。そうでないとしても、例えば擬人化された動物だったり、高度な人…