◇出てくるひと(順不同・敬称略)
イルボン(gallery yolcha車掌/詩演家):以下、車掌
小鳩ケンタ(詩人):以下、鳩
横山雄(イラストレーター/漫画家/グラフィックデザイナー):以下、横
◇◆◇◆◇
【2014年9月の相席】
横山雄個展「もうすぐそこへ行く」(2014年9月4~21日)
東京在住の横山氏はyolchaで寝泊まりしながら在廊していた。
本文内容は2014年9月7日、gallery yolchaにて収録。
横山氏が来客のポートレートを描き、イルボンが詩を添えるイベント、“drawing room”終了後に。
車掌:(横山は)ちょくちょく東京のデザイナー的な横文字(偏見です)が出てくるので、たまにキュッと脳髄が縮まるんですよね(笑)
横:(ちょっと不服そうに)出してましたっけそんなの?
鳩:(横山の)デザイン系の横文字について…
車掌:アイキャッチとか(笑)
鳩:(笑)面白いなぁデザイン系の横文字。デザイン系の専門学校を出てるんですか?
車掌:桑沢デザイン研究所。
鳩:東京生まれ東京育ち?
横:そうですね、文京区です。
車掌:彼はね、ものすごい東(東京)の視点から西(関西)を褒めまくってくるの。
横:ちょっと胃もたれ気味でしたからね、その東の感じが…
鳩:どういう胃もたれ感なんですか?
横:とてもポップ過ぎる…80年代、90年代初頭リバイバルがあって、そのヘタウマ感というか…
車掌:西はまだオタク文化に統括されてない感じがある。
横:例えば京都の出町柳の方の若手の作家さんのギャラリーとか行っても、そこに置いてある本とかがちゃんと丸尾末広(※注1)だったりとか。
車掌:ちゃんと丸尾末広(笑)
鳩:東京はそこがもう無くなってる?アイドルの方がいいぞって感じですか?
横:まぁ何だろうなぁもうちょっと…
鳩:今、年代は?イルボンさんと同い年くらいですか?
横:いや、全然。一回りくらい下です。
鳩:だからちょっと上の世代の人が80年代リバイバルで嫌になってるんじゃないですか?その下の世代やからちゃいます?
横:たぶんその、80~90年代のリアル世代が40代くらいで企画立てたりするからそういう関係もあるかと。
鳩:極端に出るんでしょうね。
横:極端に出てて、オタク文化とファッションが結構くっついてて。
車掌:全部くっついちゃうのよね。
鳩:活動は長くないって話を…西は初めての個展ですよね?
横:個展自体が今年初めて5月に(東京で)。
車掌:だからすごい意外でねー。初めての個展観に行ったんですけど東京まで。
鳩:デキる子はデキるってことなんですよ。
車掌:漫画出身っていうことで。
横:元々漫画家になりたいって小っちゃい頃から思ってて、その過程でデザインを学んだのでまぁ色々幅が。色んな絵の良さがあるんだなとか、画面の作り方とか。
鳩:漫画家さんを志望してそこからデザインを学ぶって強いかもしれないですね。
横:親が反対しててあんまり漫画描けなかったんですが…
車掌:お母さんが?
横:まぁ父の方が。それでデザイン勉強してたんでデザインの仕事をしようってなってから、初めて漫画を描いてみて。パッケージングした一個の完結した話として清書するっていうことを。
車掌:最初からストーリー漫画という感じで?
横:そうですね、ストーリー漫画を描いて色んなとこへ持ち込んだ時に一番反応が良かったのが(ビッグコミック)スピリッツで。それでスピリッツの賞の担当が付いたので出したら佳作をもらって。そこから早いだろうと(漫画家の)アシスタントとして入ったんですけど、そこがあんまり合わなかったというか…
車掌:ずっと背景ばっかり描くんですよね。
横:まぁそういうもんなんですけどね。
車掌:何でも出来ちゃうタイプだから、ここに居なくてもいいやって。
車掌:でもね、単純な器用貧乏にも見えなくってね、そこがいいなと思って。時流をちゃんと見てるっていうか。流行りとかってオレは見ないっていう人いるけど、そこちゃんと見つつ上手く逸らしてる感じがする。それが出来る人ってそんなに多くない気がするんです。
横:それは結構褒め言葉ですね(笑)ありがたい。
車掌:今から落とすから(笑)
横:(笑)
鳩:初個展が今年の5月。5月って最近ですよね!
車掌:それは何でポポタムになったんですか?
横:(個展場所を)ものすごく探してて。半年くらいどこでするか悩んでたんですよね。考え過ぎだよって言われてたんですけど。まず、自分はデザインの仕事もあるので、在廊出来ない日もあるから。自分で鍵開けて閉めてってところもあるじゃないですか。そうじゃなくって誰かが居てくれるってことが一つと。あとはあんまり狭過ぎるとちょっと居づらいから帰るわってなるから。
車掌:え?大丈夫だったここ(yolcha)?(笑)
横山:(笑)
車掌:だから(横山は搬入日まで)ここに来たことなかったからね。
鳩:(ささやくように)せまいせまいせまいせまい(笑)
横:でも(実際は)展示するところが多くて追加で東京から絵を送ってもらいましたからね。
車掌:ちゃんと小さめの選んできてくれたから。あ、でも(yolchaの)屋根裏の展示写真をフェイスブックに載せたとき、誰かが「今回はおっきな作品ばっかだね」っていうコメントがあってね(笑)やっぱりここは距離感つかめないから面白いんだよね(笑)
横:そうなんですよ、人間をどれくらい(のサイズ)と思ってるんだろうっていう。
鳩:ポポタムさんでは企画(展)だったんですか?それとも?
横:持ち込みで。ギャラリーさんが持ってる意匠ってのももちろん大事だし、有名無名だけじゃなくて自分がどういう界隈で仕事をしたいかっていうことがあって。ポポタムさんて文芸とか絵本とかそういうのを扱ってたり。自分はデザイン系の場所にいたんですけど、だからこそ文芸とかそっちの方へ関わっていきたくて。
車掌:今言葉に飢えてるんですって。そういう文芸的な要素っていうのが今までの界隈になかったので、そういうのをどんどん取り入れたいって言ってて。今回だから彼の高校の同級生の市川太郎さんと共作を。
車掌:ちょっと聞きたかったのが、絵を描くときと漫画描くときのスイッチの差というか…どんな感じなんですか?自分の中では絵と漫画って同列なんですか?
横:まぁ漫画は自分の中でも特殊なポジションだと思っていて。自分がいる界隈が漫画の界隈じゃないってのが一番ですが、(漫画を売りにすることで)とっつき易くもあり、個性にもなるしって頭で考えてた部分もあるし、元々好きだからって部分もあるし。
車掌:今まで聞いていた話だと、もっと絵を見て欲しいがために漫画を描いているってところもあると。
横:ありますね、絵柄も同じ感じにしようと。
車掌:そういう導線になってるよね。
鳩:漫画は漫画ですごく愛を感じますね。
車掌:彼の漫画は絵と違ってどこか荒涼感っていうかそういうものを…
鳩:そう?僕、逆だけど。寂寥(せきりょう)感みたいな感じ?
車掌:寂寥感まではいかない…
鳩:寂寞(せきばく)感くらい?
全員:(笑)
車掌:まぁ何というかすごいスケールがおっきいなぁと思って。逆に絵の方は内省的な感じを受ける。なんか漫画を描くことでどんどん外へポップにいきたいという想いが。
横:あとはテーマ選びとか根源的なもの(が重要で)…プリミティブとか言ったらまた叩かれそうなんで(笑)
全員:(爆笑)
鳩:いやいやプリミティブは西でも使うよ(笑)
車掌:プリミチブ(笑)
鳩:えぇぇ~
全員:(笑)
横:まぁそういうことをテーマに扱おうと思っていて。よく話しているのが、みんなが持っている共感の受け皿みたいなものがあって、それが普遍的であれば普遍的であるほど、実際に核心をついてるし共感も得られるから。だから季節の変わり目とか、卒業とか、初恋とか。
車掌:みんなが持ってる寂寞感(笑)
全員:(笑)
鳩:まぁ若い世代っていうくくりは良くないのかもしれないけども、戦う武器をいきなりもう持ってる感じがして…すごくちゃんとしてますよね。余分がないっていうかさ、僕なんか余分で出来てるからさ(笑)
全員:(笑)
鳩:使えるものをちゃんと磨いてる感じがする。
車掌:なんか侍っぽいよね。毎晩ポンポンポンって刀手入れしてる(笑)
全員:(笑)
車掌:いつも小鳩さんと言ってるんだけど、僕らが若い頃ってそんなに表現する場所ってなかったから何かすごい羨ましくみえちゃう。
鳩:もっとあいまいもことしてたし、使いものにならない時間がすごく多くて。ムダが豊かってくらいホントにムダなものが多かった。
車掌:僕らの世代は僕らの世代でそういうムダみたいなものが愛嬌になってる感じ。
鳩:いやちゃんとしてる人はムダなんてなかったんだろうね(笑)わたし!アイ!「わ・た・し・が・ム・ダ・だ・っ・た」っつう(笑)
全員:(笑)
車掌:そうね、代弁しちゃマズいよね(笑)
鳩:代弁したらダメ!おめぇ勝手なことをバカっっていう(笑)
車掌:「僕らの戦争」は間違ってたっていう(笑)
全員:(笑)
鳩:これね、毎回聴き返すたびに落ち込むんですよ。
横:どう切り取って使うかってのは大変そうですよねホントに。
鳩:今回は僕(の書く番)じゃないので。
全員:(笑)
横:で、漫画描くときはそんな感じなんですけど、絵を描くときはデザインとかイラストレーション的じゃないもの、僕は現代美術的だったりとか、伝統的な美術とか、コンテンポラリーダンスとか、演劇、文芸、そういうものの中で、さっき言っていたような東と西の違いで言えば、ポップな80~90年代のリバイバルの人たちが使ってないものなんだけど、絶対にみんなが共感の受け皿として持っているもの、大なり小なり好きなはずなもの、そういうものを機能としてイラストレーションに入れたいとずっと考えていて、まぁ下世話な話、今それを誰もやっていないんだったら自分がそれを出来れば…
鳩:割と東京では自分が描いているものは誰もやっていないという意識があるということですか?
横:もしくは(そういう人はいるんだけども)その中で固まっちゃっていてメインストリームに出て来なかったりとか。
鳩:僕見た感じでは関西ではこの(横山の)仕事はメインストリームですよ。
横:例えば具体的なことを言っちゃうと、いいデザイナーに(絵が)使われないとか。いいアートディレクションとか仕事に巡り合えない人が多い。結局、それはイコール脚光を浴びないし。ここではすごい賞取ってるんですとか言っても、内輪になっちゃいがちだったりするのかなと。それはもったいないなぁと思って。
車掌:横山くんの話を聞いていると、デザインが自分の軸になってると思うんだけど、その軸さえも反面教師にしてるところがあって…自分は何の人だと思っている?デザインの人だと思ってるんですか?
横:うーん…
鳩:だから二個持ってるから苦しい面もあるっちゃあるよね。
横:なるほど、そうかもしれないですね。デザインしやすいから(絵の)手数減らしたりとか版として使えるかどうかとか、そういうことも考えますし。
車掌:ポップでありたいというところと、なり過ぎてはいけないという葛藤があるような気はするんですけど。
横:まぁカジュアルな言い方すると、ホント美味しいとこを狙いたいっていう(笑)「みんなホントは(こういうの)好きなはずでしょっ!」ていう。
車掌:人の興味の方をオレは引き出しているんだぞっていう意識がある、それってすごいなぁ。
横:だから作品を見て人の既視感とか、ああこれってこういう感じのテイストだよねとか、ああ「冬」ってこういうことだよねっていうことに訴えかけるっていうその作用が面白くって。そういうことでは同じ意識で描いてるけども、それぞれ絵と漫画では見る人にどういうエフェクトをかけたいかっていうことが違うって感じですかね。
鳩:(ささやくように)エフェクトエフェクトエフェクト…(笑)
車掌:でもデジャヴュ(※注2)って言わなかったよ(笑)
全員:(爆笑)
鳩:おかしいってそんなん!デジャヴュなんて誰も言わへんて!(笑)
車掌:(横山はお客さんの)ポートレートをすごい楽しそうに描いてたね。ホントにお客さんと対面してデートしてるような感じ(笑)
横:色目使ってる感じでしたね(笑)
車掌:そうそう、色目使ってたもんね(笑)
鳩:(呆れるように)何それ(笑)
全員:(笑)
車掌:だからね、普通に話してたらそんな風に話せないと思うけどね。ここにこれ(画材)があるだけで。
横:あれじゃないですか、吊り橋効果っていうか、緊張感のある場所に二人で立つって感じじゃないですか。
車掌:「見られると緊張するって言われるんですけど、(目が合うってことは)僕だって見られてるんですよ」って。
鳩:そんなこと言いながらやってんの?(笑)
横:ロマンチストなんですよ…
鳩:いろいろ言ってますけどとても可愛らしい人って感じです(笑)
車掌:なんか品がありますよね。でもまぁポートレートって言っても似顔絵描きじゃない。媚びるじゃないけど二割増しくらいに描くってのはあるよね。
横:それは写真も同じですよね、良く写りたいっていう。
車掌:なんかそこらへんの葛藤みたいなのはなさそうだけど。
横:自分らしい絵に見えればっていうオーダーでやってるので。最悪似てる似てないってのは特に。
車掌:なんか軸の置き方がどれも臨機応変でイイよね。
横:よく言われるのが何がやりたいのホントはって(笑)
車掌:それ言われるのが一番イイような気がしますけどね。だって一線にいる人って絞ってないと思うんだよね。
鳩:(おもむろに口を開く)「横山イラストレーションアカデミー」を将来作るとしたら…
車掌:何でそうなった(笑)
全員:(笑)
鳩:一年生の時にまず漫画を勉強して、次にデザインの勉強を二年の時にやって、三年生でイラストを描いて卒業するととてもバランスのいい…
車掌:(黙ってると思ったら)そんなことを考えてたんですね(笑)
全員:(爆笑)
車掌:その話で言えば人に教えるのって興味ある?
横:ああ、向いてるかなとは思いますね。
鳩:漫画とデザインとイラストが一緒になってたら無敵じゃないですか。創作が行き詰らない。
横:そうですね、あれがつまんなくてあれが楽しいみたいな時期は結構ありますね。
鳩:どこかで補給が出来るっていうか。
横:出来ればそれが全部机の前に座ってやることでなければ健康的にもいいんですけどね(笑)
鳩:そこで運動を一個取りいれたら四年制で、最後に体育が入ってくる。
横:授業、四年生になりますか(笑)でも体を動かすってあるかもしれないですね将来的に。パフォーマンス的な美学は持ってるはずなので。スポーツってことはないでしょうけど、肉体表現ってのは無くは無いですね。ライヴペイントを前回やったときも、意外と自分の言いたいことは生でやった方が合うんじゃないかって気はしますね。絵を描くこと、線を引くってことの綺麗さとか楽しさとか。
…
(夜は更けていく)
横:なかなかないですからね、それこそグループ展とかもやってないのに、5月に個展が始まってその次に9月に大阪で個展をやるというのは。その展開の早い感じっていいなぁと。
車掌:僕としては勝手に東京で一線で活躍してる人って認識だったから、じゃあまあ大阪でもやってもらいましょうかってぐらいの感じだったんだけど(笑)そこらへんの(二人の)ギャップっていうのが段々この何日かで埋まっていって、向いてる方向は一緒なんだろうなって感じがあって…僕は…うれしい(笑)
全員:(笑)
車掌:こんな感じで(今日は)いいですか?(笑)
鳩:まぁうれしいやろうなぁとは思いますね、というのを僕は横で言ってました、と(笑)
※注
1 丸尾末広
日本の漫画家、イラストレーター。長崎県出身。劇団「東京グランギニョル」の宣伝美術を担当し、役者としても活動していた。1980年『リボンの騎士』でデビュー。高畠華宵などの影響を受けたレトロなタッチと、(主に性的に)過激な描写、夢野久作や江戸川乱歩などの影響が色濃い幻想的、怪奇的な作風が魅力。代表作に『少女椿』など。2014年5月より、webマガジンぽこぽこにて肖像画を依頼できるサービスへ参加している。(Wikipedia参照)
2 デジャヴュ
(フランス語: déjà-vu)は、既視感(きしかん)のこと。デジャヴなどの表記も用いられる。既視感は、実際は一度も体験したことがないのに、すでにどこかで体験したことのように感じることである。(Wikipedia参照)
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【横山雄|yokoyamaa yu|illustration and design】
文責/イルボン