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2F/当番ノート

あの時期あの場所あの人 【第九回:2013バルセロナ 】

当番ノート 第23期

When Where Who
The Period, The Place, The Person

あの時期あの場所あの人 【第九回:2013バルセロナ 】

2013年バルセロナのあの人は、時には流れにまかせて
余白を持つことで自分と向き合い変化を楽しめることを
気づかせてくれた。

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ガウディの椅子を見てから、彼の作った物が多く残るバルセロナに興味を
持っていた。珍しく、きっかけが人始まりではなかった。そういえばブラジルに
行こうと思ったのも青い空がきっかけだった。ラテンの国のものに強く惹かれる
ようである。

高松に住む友人が、暮らすように旅する企画をしていることを教えてくれ、それが
バルセロナだった。本当は3週間のカリキュラムだったのだが、行きたい気持ちを
熱く伝えたら、予定にあうように少し短めにしてくれた。その友人がホームステイ先に
アレンジしてくれたのがあの人の家だった。バルセロナで鍼灸師をしているあの人は
もう長くバルセロナに住んでいて、スペイン語も堪能で、私たちのスペイン語の
先生になってくれた。

久しぶりに新しい言語を学ぶ。ブラジル以来。もうあれから10年弱経っていたので
錆び付いたポルトガル語の引き出しを抉じ開けながら、脳をマッサージしてみると、
思っていたよりも早く頭に入ってきた。言葉を覚えるのは年々辛くなるが、それを使うのは
とても楽しい。iPhoneのフリック入力を習得したときのようなもどかしくて携帯打ち
に戻してしまおうと思いながらも、少しずつ早くなっていくので、不必要にフリックで
メッセージを送ってしまうように。新しい事を覚える時、できないイライラと
できるようになるかすかな希望を行ったり来たりする。そして
大人になって言語を学ぶとき、理解できる言葉と併用しながら学んだ方が
早いこともあるのだと、彼女に日本語とスペイン語を交えて教えてもらいながら、
思った。ひんやりとした夜の空気が強い陽の光であっという間に暖かくなる
バルセロナの朝。大きな木枠の窓の外には隣近所のベランダや屋上が見えて、
パラソルやデッキチェアやそれぞれが好きなタイミングで好きなように外の
空気をいつでも吸えるようになっている、旧市街の街並み。畳があるあの家の
リビングダイニングで、朝のスペイン語レッスン。滞在が終わる頃にはバルでかっこよく
冗談を交えて注文、なんてまでには全くもってならなかったが、朝カフェに行き、
パンコントマテとカフェコンレチェはオーダーできる様になった。恥ずかしい
を通り越して、食べたいが先に来るので、食べ物好きはその国にいると
言葉を覚えるのが特に早いと思う。ガラスケースに並ぶ色とりどりのタパスに
目をキラキラさせながら、まずカヴァとトリティージャを頼む。思い思いの物を
少しずつ食べられるあのスタイルは大人数でも少人数でも楽しめる。いつどの
タイミングで参加しても、他へ移動しても、好きなように食べたりできる。
スペインのその気楽さはとても楽しい。楽しい空気の中で食べるものは
美味しいが増す。

バルセロナを良く知るあの人は、カタルーニャで是非真っ黒なアロスネグロをと、
その郷土料理が美味しい店に連れて行ってくれた。日本でない国で日本から来た
人間として暮らすこと。中にいる外からの視点から縁取られるスペイン。
外にいる、中にいたことのある視点から見える日本。お米の郷土料理という
共通点がある、それぞれの国の事を話しながら、迷路のように入り組んだ
細い路地をすいすいと進み円形広場の外側に軒を連ねる中にあるレストラン
のテラス席でお米の国日本出身の人達とお米料理のランチ。新鮮な魚介が
とれる海沿いの街ならではのイカスミをたっぷり使ったパエリヤ、
アロスネグロ。そのままでも味わい深いのだが、ついてくるニンニク
たっぷりの自家製アリオリソースをつけてたべると更に違ったコクと
旨味が増して、口へ運ぶスピードが増す。美味しい美味しいとどんどん
食べる私を「よかった、気に入ってくれて」と笑顔で言ってくれたのが
とても印象的だった。石と土と木が沢山の時を重ねたあの景色の中、
強い太陽の日差しを受け少しまぶしそうに笑顔で見送ってくれたあの人に、
またあの土地で会いたいと思った。それまでに少しスペイン語を学んで
いようと思っていた事を、思い出した。

香港で初めてイギリス英語と出会ってから、普段の生活で少し慣れた広東語、
フランス語の先生の素敵な発音を真似したくて学んだフランス語、カナダで
クラスメイトの仲間に入りたくて発音もかっこよくと気をつけた北米の英語、
ブラジルで家族と話す為のポルトガル語、そして街の中で楽しむ為のスペイン語。
それぞれ分かる深さは違うけれど、使いたい先に想像できる人がいた。

初めて違う文化の言語に出会った時の楽しさと、時を重ねて今の自分にあった
学び方と楽しみ方が変化している事に気づけたのは、2013年バルセロナに
あの人がいたから。

【POSTSCRIPT】
美味しいものと共有する為の表現方法の一つである言葉。
どちらもとても好きで、それが自分の揺るがない軸。
こうして言葉を綴りながら、少しまた自分の輪郭が見えた気がする。
これからも、沢山、美味しいね、を楽しく重ねていけたらとても幸せだ。

travellrei

travellrei

日本、香港、カナダ。それぞれの場所、同じくらいの割合で過ごした思春期。
ものの見方、軸の置き方、それは文化によって様々であることを肌で感じ、魅了されてきた。
どんな事を思っているのだろう、どんな風に思っているのだろう、
いつも気がつくとそんな事ばかり思っている。
出身地がどこといいきれないことに対して持ち続けたコンプレックス。
歳を重ねるたび、日本という国で培われた文化の層の多様性に
膨らむ恋心。
人はなぜ旅をするのか。
色々な事を思う事が、とりあえず好きなんだと思います。

Reviewed by
oco

reiさんの旅する記録の最後の街は、スペイン バルセロナ。今まで行った国の中で何処が良かった?と聞かれていつも即答する街だ。人も、空気も、とにかくエネルギー量が強くて、食べ物の色彩もものすごく強かった。そこで食べた料理はどれも美味しかったし、そこにいると明日の心配なんて何もいらないような気がしてきた。もしその日暮らしであっても、実際の生活は大変であったとしても、みんな生命力が強く、血の濃さを感じた。
美味しいものを共有することはいつでもどこでも素敵だ。そしてそこで感じることも。移動しながら出会う人と、そこで感じる互いの変化は、異国の地ならよりくっきりと浮かび上がるだろう。
たくさんの街と人、そして言語を習得した人に共通するしなやかな強さを感じ取りながら、これからも見ていくであろう新しい景色に、たくさんの祝福を。

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