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当番ノート 第29期
///////////////////////////////////////////////// 2010年12月30日からの手紙 ///////////////////////////////////////////////// 新しく仕入れたレシピで、チーズケーキを作っている。 1人でお菓子を作る時間が好きだ。 きちんと積み重ねていけばおいしいものができあがることが、好もしい。 安心して作業…
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当番ノート 第29期
モザイクみたいにこまくて、膨大な だけどひとつ、ひとつが、あわさって わたしの視界はできている。 モザイクみたいにこまかくて、膨大な そのひとつ、ひとつに、目をこらすたび わたしはわたしの行方を失った。 こどものころ、枕元に置いたたくさんの人形を ひとつ、ひとつ、毎日順番に、 かわるがわる抱いて眠らないといけないような気がしてた。 きっとそのころと何にも変わらない。 みんなしあわせだったらいいのに…
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当番ノート 第29期
1日目。経由地のアメリカで別行動をして、あちらも自分の用事を済ませてきた夫と、オアハカの空港で落ち合う。 昼過ぎに、アパートに着いて荷解き。スーパーを探して歩き、パンだの、塩胡椒だの、洗濯石鹸だの、洗濯紐だのといった、当面の生活に必要になりそうな物を買い揃える。帰ってきて洗濯をすませる。 2日目。寝坊して、遅い昼食にと、アパートの1階にあるカフェで本日のお勧めを頼んだら、コオロギのオムレツが出てき…
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当番ノート 第29期
Twilight of the Utopia ヒーローであること、とは、なんなのだろうか。 ウルトラマンは神ではない。救えない命もある。仮面ライダーだって、スーパー戦隊だって同様だ。海の向こうに目を向けてみても、世界そのものを救済できる存在はほとんどいない。それは、(もし再臨するならば)ナザレの彼あたりの仕事だ。 それでも、ヒーローは何かを守る。 ヒーローは誰かのために戦う。 守るべき対象があって…
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当番ノート 第29期
ガチャ・・・・・パタン・・・。 静かに家を出て扉を閉める。 アパートの廊下にはまだ明かりがついている。 朝の5時半。 すーっと息を吸い込む。 まだ暗い早朝の空気が身体の中に入ってくる。 朝露の香りと水分の多い空気。 この空気が好きだ。 夜の間に、せっせと作られていたような新鮮な空気。 昨日の終わりと今日の始まり、このわずかな時間もとても好きだ。 パッと切り替わるわけではなく、昨日からの続きのまま徐…
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当番ノート 第29期
こんばんは。なんと今朝は雪景色でした。11月に甲府が白く覆われるなんて、54年ぶりだそうです。 昨日は、地域のおそうじのとき、枯葉を集めて焼き芋を大量につくって子どもたちと楽しく、ホクホクと 食べていたのに。目の前の山は美しい紅葉のピークを迎えていたのに。 でも、実は、雪は大好きなのです。雪が降る前の雪のにおいが特に好き。そして、一晩にして、世界を変えてしまったかのようなあの圧倒的な力に、そして、…
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当番ノート 第29期
////////////////////////////////////////////// 2010年4月8日からの手紙 ////////////////////////////////////////////// わたしにはずっと、居場所がない気がしている。 自分から身を引くのに、ひとりきりはどこかこころぼそい。 自分で決めたことならば、振り返らず凛としていられたら良いのに。 Letter f…
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当番ノート 第29期
これからどんどんあなたとすごした季節がやってくる。 もうすぐ季節はあなたに出会う。 はじめて袖を通したセーターから 小さく出した指先が向かう先へ、 両手でつつんだカップの中 紅く染まったホットワインからあがる シナモンの香りの湯気の奥へ、 表情も無くなった横顔が 「春のにおい、」とつぶやいたとき かろやかに痛んだその場所へ、 そして、 一人天井を見つめて聞いた 蝉のざわめきのなかへ、と。 これから…
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当番ノート 第29期
出発まで少しの間があって、実家に戻ってきた。父と母と夫と、家族の時間を過ごしている。東京にある実家には、結婚して以来、夫と一緒に夕飯を食べに来るくらいしか家に寄ることがなくなっていた。ようやく今、ゲストともてなす人ではなく、わたしたち4人が新しい家族の形を得て溶け合いなおしていっているような感覚がある。 「お祭りやっているぞ!」と父が教えてくれた。 神輿のかけ声に誘われるままに、かつて暮らした町を…
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当番ノート 第29期
「ばいばーい。」「またね~。」 「また会いましょう。」「今日は楽しかったです。」 「じゃあなー。」「うーす。」 「では、また。」「ええ、また。」 私たちは毎日人と顔を合わせては別れていく。 毎日別れ際のひと時を過ごしている。 また会えると無意識に信じて、一緒に過ごした時間が楽しかったから、笑いながら別れていく。 人との別れ際の時、私はその人が見えなくなるまで見送る。 その人が振り返らなくても、すで…
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当番ノート 第29期
お前は誰だ、と聞かれたとき、ヒーローは名乗り、口上を述べる。 なぜ、口上が付くのか。 ここに人間の希望があると知らしめるため、と本郷猛なら答えるだろうか。許せない巨悪に対して断罪の恐怖を与えるため、と答えるのは一乗寺烈だろう。特捜戦隊デカレンジャーのように、職業上そもそも身分を名乗る必要がある場合もあるだろう。 だが、そのどれでもないパフォーマンスがある。民衆に対してでも、敵に対してでもない、独語…
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当番ノート 第29期
こんばんは。先日の「スーパームーン」は残念ながら本州広い範囲でお天気悪く見られませんでしたね。 その前日とその翌日、どっちもきれいでした。 前日は大阪から帰り、ずっと追いかけてくる月を見て(車なので、ずっと見てるわけにも いかないのだけど(笑)) 翌日は浜松で、建物を出たら目の前に昇ってまもない大きなオレンジ色の月を見ましたよ。 今、今年の大みそかにオンエアされる予定のラジオ番組をつくってます。 …
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当番ノート 第29期
////////////////////////////////////////////// 2010年6月25日からの手紙 ////////////////////////////////////////////// 笹舟を2つせっせと作る。 川面に放たれた小舟は岸からぐんぐん離れて 寄り添って、追いかけて、ぶつかってやがて見えなくなる。 心が口からあふれだしてしまうような感情も、 一度熱を失え…
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当番ノート 第29期
すきじゃないものにさわらないから すきなものにさわれるようにしてください。 よくばらないから ほしいものをください。 きらいなもののことかんがえるために こころをさかないから すきなものでこころをうめつくしてください。 ひていすることで てにいれられるあんしんにすがらないから ゆるしてください。 みとめなくていいから ゆるしてください。 ————…
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当番ノート 第29期
その日は雨が降っていた。 荷物を運び出している車の中で、YUIの「東京」が流れた。 正しいことばかり、選べない、それくらい、分かってる。 答えを探すのは、もうやめた。間違いだらけでいい。 福岡から東京に上京してくる彼女の心境を歌ったこの曲を、いままでも好きだったけれど、なんだか今日ほど沁みてくる日もないなと思った。窓ガラスに小さな雨粒がついていくのを、ワイパーが繰り返し、ゆっくりと払っていった…
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当番ノート 第29期
女でいることにコンプレックスを感じる時がある。 女でいる自分や女性を見て、女って苦手だなと思う場面に遭う。 もっと女を楽しめたら人生違うと思うが、自分は女を楽しめていない気がたまにする。 オカマちゃんたちが聞いたら、代わってよ!と言われそう。 なぜ女でいることにコンプレックスを感じるのか、女でいる自分に劣等感を抱くのか。 私の働いている職場は男性が多いのもあって、女性を優遇というか大切にしているよ…
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当番ノート 第29期
人は身体という入れ物に入っている。 よく聞く表現だが、これは不正確だ。デカルト的心身問題。私の意見としては、人間は身体でしかありえない。生じる際に肉体をもって生じている以上、肉体を離れて存在する何らかのエネルギーがあったとして、それは「私」ではない。別の何かであろう。 人は身体によって人であり生命である。 では、これをどうしても実感できないとき、生きることは出来るのだろうか。 仮面ライダー龍騎(2…
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当番ノート 第29期
星空書簡6―大きな月 こんばんは。秋を飛び越えて冬が一気にやってきたような今週です。 北海道の美瑛に住む友人は、まだ、収穫も終わってないのにすっかり雪が積もりの さすがの北海道人もパニックといっておりました。 私のいる山梨は、高い山々に囲まれているので、季節をまたぐとき、何かその 季節の間をいったりきたりできるような時期があります。美しい紅葉と雪の稜線を 一緒に抱きかかえる山々を眺められます。 東…
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当番ノート 第29期
////////////////////////////////////////////// 2010年1月10日からの手紙 ////////////////////////////////////////////// 深夜に非通知の着信。 普段ならそういう電話には出ないのに なんだか好奇心にかられて電話をとった。 もしもし、と言うと、 受話器からかすかに歌声が聞こえてきた。 もしもし、とわたしは…
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当番ノート 第29期
雪はもう雨になっちゃって あいたいってもういえなくなっちゃったよね。 せっかくつもった雪が雨に溶かされてゆくのをながめて過ぎる時の中で この部屋は、あいも変わらず しんと冷えて澄みとおっています。 気づけば青い朝が来て じゃあきっと今日は晴れなんだろうね。 晴れた空を無視して、あたたかな部屋で珈琲を飲もうか なんて またあたらしい口実を 実らない口実をさがしたりしたけれど 布団をかぶせて、かき消し…
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当番ノート 第29期
空のダンボールはまだ5つ程残っている。大体の荷物は詰め終わったものの、細々としたものが残っている。ここからが長いのだ。 長い夜を前に、トムネコゴに挨拶にいった。日常からこの喫茶店がなくなったらどうなってしまうんだろう…と感傷にひたる私に、「メキシコにも『メキシコゴ」があるかもしれませんよ』とマスターは言った。唯一無二のものにしておきたい私の心とは裏腹に、マスターの方がさばさばしている。…
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当番ノート 第29期
「もうダメかもしれない・・・」成田空港での私は、そんなことを思っていた。 一緒に石垣島に行く友人(喜屋武くん)が、電車の遅延で空港にギリギリの到着だったのだ。 無理だ。行きたかった石垣も飛行機に乗れず行けなくなるんだと、私はネガティブ全開だった(と思う。) しかし、一緒に喜屋武くんを待つもう1人の友人(高田くん)は余裕顔だった。 高田くんはこの状況をとても楽しんでいるように見えた。 「走ってくる喜…
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当番ノート 第29期
ヒーローのコスチュームは、体を覆うものだ。仮面も、服も、マフラーも、その奥にある何かを隠すためそこにある。仮面ライダー本郷猛は、境界線上に生きるため、仮面をかぶる。バッタをモチーフにしたライダーの仮面は、泣いているようにも怒っているようにも見える。仏像をモチーフにしたアルカイックスマイルのウルトラマンとは対照的だ。仮面の下に悲しみや怒りを隠し、ライダーは走り去る。 今日の本題は仮面ライダーの話では…
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当番ノート 第29期
こんばんは。 先日、久しぶりに秋らしい夕暮れ時間を堪能しました。100人くらい集まってくれた「冬の宙と星の一生」と いう講座を終えたあと、買い物して急いで帰らなくちゃいけなかったので、「堪能」というには、 ちょっと時間が十分でなかったけれど。でも、その講座のあとに、たくさんの方々が声をかけてくれて、 中には、私の本を読み込んでおられて、なんだか立ち話なのに、人生話しちゃったりしてたので、 そんな…
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当番ノート 第29期
////////////////////////////////////////////// 2010年8月25日からの手紙 ////////////////////////////////////////////// 昼下がりに雀の巣を見た。 お母さん雀と、もうすぐ巣立てそうなひな、そしてまだ小さなひな。 ずいぶん育ちに差があるなと訝っていたら 小さな方のひながわずかに飛んで、わたしの肩に留まっ…
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当番ノート 第29期
図々しくも生きている。 あなたをあんなに傷つけたあとでも。 図々しくも生きている。 誰かを知らぬ間に踏みにじったあとでも。 道案内は、親切にできる。 どんなにゆがんだわたしでも。 食べ物を求める空腹になることができる。 どんなに罰当たりなわたしでも。 図々しくも生きている。 食べ、眠り、生きている。 生きることでしかつぐなえないものへ向けて。 生きることでしか生み出せない明日へ向けて。 ̵…
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当番ノート 第29期
隣の家に住むちびっ子は今日も朝から元気だ。 「お姉ちゃんたち、メキシコに行くの? しんちゃんに会うの?僕も行く!」 一瞬、なんのことか分からず答えに詰まると、後ろからお母さんが出てきた。 「もう、この子たちクレヨンしんちゃんの映画が大好きで…。 この夏、映画の中でしんちゃんの家族がメキシコに転勤になったんですよ」 「クレヨンしんちゃんがメキシコに転勤する時代なんですか」と驚くと、 「ねー、びっく…
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当番ノート 第29期
コオロギの鳴き声、夜風、月明かり。 石垣島の空の下、夜の中に入り込んで、自然たちと一緒に私たちは毎夜宴をした。 普段話せないような、心の奥底のことを話し出せる時というのは、こんな夜なのだろう。 4年以上前のこと 自分が思っていることを、本音で話さないようにしていた。 周りの人達に合わせていることが多かった。 たまに本音で話すと、重い~と言われたり、そんなこと考えたことなかったよという返答がくる。 …
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当番ノート 第29期
青空になる、ということ 青空を見あげる、ではない。 青空を翔ける、でもない。 青空になる。とは、いったいどういうことなのだろうか。 仮面ライダークウガ(2000)についての話をしたい。平成仮面ライダーシリーズの第一作目にして超人気作。シリーズ最高傑作にあげる人も多い作品である。ステロタイプな悪の組織が存在せず、男らしさを称揚する描写が少なく、必殺技も叫ばない、それまでのいわゆる「仮面ライダー」像を…
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当番ノート 第29期
こんばんは。 あなたにこの手紙が届くのは夜だけど、私が手紙を書いてる今は、夜明け前。 今朝4時半ごろ、ベッドから南向きの窓を見上げたら、オリオン座がくっきりと。それを見たら、バチッと目がひらいて、すっかり起きだしてしまいました。 早起きは三文の得、かな。いいものを見ました。 オリオンのうしろ、つまり、東側に、2つ明るい星があって、それぞれに、おおいぬ座のシリウスと、こいぬ座のプロキオン。オリオンの…
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当番ノート 第29期
////////////////////////////////////////////// 2010年4月4日からの手紙 ////////////////////////////////////////////// 自分自身の心の在り方を表すすべとして、「表現」というものがあって 同時にそれが社会とつながるすべとして成立するものであればと願う。 社会の中で社会人らしくあることで、 自分が「ある」…
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当番ノート 第29期
アイドルを見て、心から微笑む。 アルバイト中、心から微笑む。 カウンターや、テレビ画面 何かを媒介した わかりやすい虚構にコーティングされたわたしは いつ、どこよりも、本当に 心の底から笑っている。 わたしでなくなった途端に わたしの底から感情をあらわにすることができる。 わたしは誰でもいい誰かになりたい。 誰かにとって、ではなく、 わたしにとって、誰でもいい誰かに。 わたし、わたし、 やかましい…
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当番ノート 第29期
ダンボールにはようやく本などが詰まり始めた。まずは壁に飾ってある写真や、家中のドライフラワーといったいわゆる装飾品から処分しようとする夫と、そういうものは最後まで残しておきたい私の間で、ちょっとした緊張関係が続いている。私が「先に押し入れの服を詰めちゃおうよ」と言えば「それ、最後の日に頭が回ってなくてもできるじゃん」と夫が言い、「飾りこそ、ぱっと外せるから最後にしたい」と私が返す。 部屋を最後まで…
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当番ノート 第29期
石垣島に行ってきた。 仲のいい友人、お会いしたかった人々に会いに行く旅。 どんな旅だったかは、またの機会に。 今回は、見送られることについて。 見送る側と、見送られる側、どちらが寂しいのだろうか。 石垣から一緒に帰った友人とそんな話をした。 友人の考えは、見送る側(石垣にいて迎え入れる側)は、そこに生活があるから、 私たちが去ったとしても、彼らは日常の生活を続ける。 見送られる側(石垣に来て去る側…
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当番ノート 第29期
バカなもの、をつくるのは、実はとても難しいと思う。悲劇より喜劇のほうが書きにくいという話もある。ジャンルを問わず、その多くは狙いすぎて単にこちらを白けさせるだけだったり、笑いとシリアスのバランスが取れずつまらないものになっていたりする。 計算しつくされたバカっぽさ。愛すべきくだらなさ。それは侍戦隊シンケンジャー(2009)が筆型の携帯電話を「ショドウフォン」と呼び、轟轟戦隊ボウケンジャー(2006…
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当番ノート 第29期
星空書簡3 -流れ星降る夜 こんばんは。日が落ちるのがすっかり早くなり、秋がひたひたとやってきます。 「秋の日はつるべ落とし」という言葉があります。気づくと、もう陽がおちてしまっているという意味 ですが、毎日ぐんぐん陽が落ちるのが早くなっていくのも関係しているように思います。 先日の十三夜は見られましたか? こちら、山梨では残念ながらドン曇り、今年はほんとになかなか よい空に恵まれません。でも、…
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当番ノート 第29期
////////////////////////////////////////////// 2010年1月22日からの手紙 ////////////////////////////////////////////// ずいぶん前、「ずっと一緒にいたいから、変えて」と、相手にせがんだことがあった。 彼が生まれてから、家族で大切にしてきたことを。 後になって振り返って、 ひとの根底に関わるような大切…
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当番ノート 第29期
ひとはいつもすれちがう。 瞬きの間に、すれちがう。 ことばは待ち合わせ場所だ。 絶対の目的地なんかじゃない。 重なり合うことなんてない。 イコールで結び会うことなんてない。 それでもどこかで会いたいと かすかなことばをならべたりする。 そのことばをまた、ことばでつないでいく。 あなたに、あなたに、つないでいく。 すこしでも、ちかづけるように。 いちばんちかくへ、いけるように。 そうして、あ、。 瞬…
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当番ノート 第29期
窓の外からは、くすんだオレンジと赤の屋根が見えた。4階から広がる景色は開けているから、曇り空の白さが際立つ。打ちっぱなしコンクリートの壁の向こうに、大型スーパーの冴えない看板が見える。 「相変わらず暑いですね」私が声をかけると、「でも今日はだいぶマシじゃない? 今朝起きて『やったー涼しい!』って言っちゃったわ」とふみこさんが言った。 私はハッシュドポークをスプーンに乗せたまま、外をぼんやりと眺めて…
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当番ノート 第29期
ラジオ聞いていますか? 車の運転の時ぐらいですか? 深夜にひとりの時、たまにですか? 私の家には、テレビがない。 もう5年ぐらいテレビのない家で暮らしている。 (一人暮らしの前は、シェアハウスで暮らしていたが、その家にもテレビはなかった。) 実家に帰った時や、近所の小さい居酒屋さんでテレビがついていると、ついつい見入ってしまう。 テレビが嫌いなわけではないけれど、ラジオが好きだ。 小学生の頃、私の…
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当番ノート 第29期
ヒーローとは人を救うものである。と、我々は思う。ウルトラマンが怪獣の火から町を守るとき、仮面ライダーがダムの爆破を阻止するとき、スパイダーマンがビルから落ちる作業員を拾うとき、我々はヒーローをまなざす。それは憧れであったり、冷笑であったり、そうしたヒーロー達でも救えないものがいることへの非難であったりする。 ヒーローは強く、折れない。たとえ一旦折れても、不屈の意思をもって何度でも立ち上がり、我々を…
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当番ノート 第29期
こんばんは。 あなたは、この1週間、空を何度見上げたかしら? 大学生のころ、よく読んだ詩の中に、長田弘さんのものがありますが 「最初の質問」という詩の冒頭は、 「今日、あなたは空を見上げましたか。空は遠かったですか、近かったですか。」 というものからはじまります。最初の質問の一番最初なのです。 それぐらい、空を見上げるということは、私たち一人ひとりが、 毎日を生き物らしく生きていくのにとても大切な…
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当番ノート 第29期
////////////////////////////////////////////// 2010年6月8日からの手紙 ////////////////////////////////////////////// 不意に母が、「死んだらどこに行くんだろうね」とわたしに聞く。 「もし天国があるなら、きっとそこはひとであふれかえっているね」。 空に手紙を書くとして。 はたしてわたしは何と書こう…
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当番ノート 第29期
暮らしは嘘をつかない。 暮らしは裏切らない。 暮らしはいつも、正直にこたえてくれる。 窓を開ければ、あたらしい空気が吹き込んでくれる。 床を研けば、つやつやとひかってくれる。 洗濯をすれば、きれいにみちがえった布がわたしを包んでくれる。 料理を作り、口に運べば、きちんと腹が満ちてくれる。 わたしの作る料理は、 わたしにとても、おいしくやさしい。 喜びや安心は、自給自足して生きなければならない 、と…
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当番ノート 第29期
暮らしのリズムが変わった。彼は毎朝起きると「あー幸せ」と言う。それから朝ご飯を作り、それをゆっくりと食べて、本を読んだり、美術館に行ったりしている。 私のほうは未だ存分に仕事が残っている。低気圧からくる頭痛と戦いながら、しぶとく明けない梅雨の空を恨めしげに眺めている。 最近、この家を離れることが、すんなり自分のなかに入ってくるようになった。この体調も気力も下がり気味な状況から抜け出せるのであれば、…
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当番ノート 第29期
一人暮らしをして、2年ぐらい経過した。 はじめてこの家を見に来たとき、ここに住んでみたいな~と なんとなく自分が住んでいる様子が思い浮かんだ。 異性とお付き合いする時も、きっと、そう。 自分がその人とお付き合いしているのが思い浮かばないと、 なんだかしっくりこないなと思い、前に進もうとしなくなる。 イメージと違った展開が待っているかもしれないのに、 しっくりこないその先に、しっくりが待っていたかも…
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当番ノート 第29期
怪獣、とは我々にとって何だろうか。子供のおもちゃ、恐怖の対象としてのモンスター、ラテックス製の着ぐるみを着た、おどけたキャラクター群・・・少し怪獣映画を知っている人なら、戦争のメタファーと答えるだろうか。 怪獣モノ、というジャンルには、時代や作品によってさまざまなバリエーションが存在する。かつてロマンポルノの製作者が、濡れ場さえあればどんなシナリオでもよい、と言ったという話があるが、怪獣モノもそれ…
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当番ノート 第29期
はじめまして。今日から、まだ見ぬ、名前も知らないあなたに向かって 手紙を書くことにしました。でも、私はすでにあなたを知っているような こともあるでしょうし、あなたもはたと私とあったことがあるように思う かもしれません。 今、月齢5の月が南西の空に輝いています。しかも今夜は月のすぐ下に 明るい土星がランデブーしているのですよ。あなたの空には見えているかしら。 月は毎日、星の中を東へと移動していきます…
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当番ノート 第29期
////////////////////////////////////////////// 2010年2月25日からの手紙 ////////////////////////////////////////////// 夕暮れのなめらかな海の水面のようだと思えば、 いたずらを覚えたばかりのあばれんぼうの 波打つ胸のようだったりする。 心は、晴れたり曇ったり。 ときどき雨も降ります。 世界に対し…
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当番ノート 第29期
ぽつら、ぽつら。 あかりがまばらについている。 ひとりだなあ、とおもう深い夜 そんないくつかの窓あかりをおもいうかべて ひとりだ、ということはみんないっしょで そういういみで、ひとりじゃないな とおもいます。 どうしたってひとりだなあというとき そんなふうにみえないだれかをおもって よるをこえて、あさをむかえました。 わたしのなかにも、 いくつもの、いつかの夜の窓あかりが 真夜中のアパートメントの…
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当番ノート 第29期
彼は連日、酔っぱらって帰ってきてはバタンと寝てしまう。昨日は取引先の人が開いてくれた送別会、一昨日は部署の送別会、先週が会社全体の送別会。そして今日がついに最終出勤日だ。 「この人、本当に仕事やめちゃうんだな…」 彼が仕事を辞める理由の半分は、確実に私の側にある。この先どうやって一緒に生きていこうかを何度も話し合った結果、しばらくふたりで旅にでることになったのだ。 その計画自体に不満はない。その人…
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当番ノート 第29期
朝目覚めた。 見慣れない部屋。 あれ、ここはどこだったっけ?と天井を見ながら思う。 隣のベッドでは、友人がスヤスヤと寝ていた。 それを見て思い出す。 そうだ、私たちはインドに来たのだった。 友人を起こさないように、物音をたてず気をつけながら窓辺に移動する。 静かに窓を開けるが、錆びているのかガガッガとわりと大きな音がする。 起こしてしまったかもと心配になり振り返ったが、彼女は変わらず眠っていた。 …
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当番ノート 第29期
君は僕の未来だから愛をささげよう 地球戦隊ファイブマン(1990)のエンディングテーマのワンフレーズである。 「ファイブマン」は不遇な作品だ。裏番組のらんま二分の一という名作に視聴率を奪われ、戦隊人気低迷期の作品であったゆえ、語られることも少ない。翌年の「鳥人戦隊ジェットマン」が誰もが認める大作・傑作であったことも、相対的にファイブマンの地味さに影響しているような気もする。 幼くして両親を失った5…