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当番ノート 第31期
春の夜には、どこまでも歩いていけそうな気がしてくる。 冬が終わりに近づく頃になると、日中暖められた空気が、夜になっても、暖かいままとどまるようになってくる。頬や指先に触れる空気もやわらかくて、足先の感覚が失われるようなこともない。長い時間外に出ていると、体はさすがに冷えてくるのだけれど、冬のように芯から凍えたりはしなくて、屋内に入って温かいものでも食べていれば、すぐにまた体内に熱を感じるようになる…
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当番ノート 第31期
ローマ帝国五賢帝最後の一人、マルクス・アウレリウス・アントニウスは、治世の多くを外敵との戦争に費やしたが、その陣中において、あるいは宮廷において、自分自身を省みるため、また戒めとして、ギリシア語で『自省録』を著した。これはそもそも人に見せるために書かれたものではないため、タイトルは特になく、冒頭「自分自身に」と記されてあったという。 幼い頃より培われた古典的教養に裏打ちされた深い哲学的洞察の結晶で…
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当番ノート 第31期
何らかの成り立ちについての考え方の1つとして、 「血」と「地」と「知」の「3つのチ」 という軸で考えると色々腑に落ちる事に気付いた。 きっかけは、ある時の即興演奏で、素の様な状態で無意識に旋律を紡いでいる時に、ペンタトニック(1オクターブがドレミソラなどの5つの音で形成される音階)の日本のわらべ歌っぽい旋律やアジアっぽい旋律での演奏に偏る事があって、録音をプレイバックしながら、はたしてこれ…
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当番ノート 第31期
全然読書家ではない私ですが、本屋に行くと中身は関係なく、装丁の美しい本を思わず手にとってしまいます。とくに布張りの本が好きで、読めない外国語の本でも装丁がおもしろかったりすると、手元に置いておきたい衝動にかられることがあります。 今回は自分が染めた紅茶染めと鬱金染めの布を使って豆本を作りました。豆本ではなく普通サイズでもよかったのですが、最近自分の描いていた絵に合う、手のひらに…
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当番ノート 第31期
僕は父親とお酒を酌み交わしたことがほとんどない。 別段、僕も父もお酒に弱いわけでもないし、嫌いな訳でもない。 でも、僕が実家でお酒を飲む事は、ほとんどというか一切無い。 況して、父と差しでどこかに飲みに行く、なんてこともしたことがない。 もうとっくに30歳を過ぎたけれど、小っ恥ずかしさが拭えなくて、飲みに誘ったこともない。 たまに実家に帰ったときに「いつかそういうことができるのだろうか」と頭の片隅…
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当番ノート 第31期
ランニングの話ばかり続けてきて、これでいいのだろうかと悩むこともなく、今回も一貫して突っ走るのだ。これでいいのだ。 というわけで、1週間前には背振山系の全山約80kmの縦走を楽しむこと28時間。前日を含めて丸々2日間寝ていなかったら、幻聴が聞こえるという貴重な体験もできた。 そんなことをしたり、へんてこなランニングレースに出ていると、「なんで、わざわざ苦しい思いをしに行くのか」「ドMなんでしょ」「…
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当番ノート 第31期
強い日差しの下で風に踊る紙切れを見た。 それを見たのは、ある大好きな空港でのこと。ボルネオ島の北東部のはじっこにある小さな小さな地方空港で、海外調査の際に利用している。わたしはこの空港が格別に好きなのだった。 調査が終わった後、州都へ移動するために、この空港で1-2時間、フライトを待つ。ゲートもロビーもひとつしかなくて、ロビーの中に簡易食堂を兼ねた売店がある。ロビーの簡易食堂の領域には、古いテレビ…
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当番ノート 第31期
なぜ、猫はかわいいのか。 それは登山家が、「そこに山があるから」と言って危険を犯して登るのと同じかもしれない。 つまり、猫の存在そのものが、すでにかわいい。 しかしそうは言っても、ちょっと考えてみる。なぜかわいいのか。 ▲ヨハン。私が一緒に暮らしている猫。すごく鳴きます、叫びます。今年で10歳になります。以下、ヨハンの写真とともに、猫について考えます。 猫は犬と違って、野生の本能を忘れていない動物…
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当番ノート 第31期
初めて入った店で自分の音が流れていて驚いた事がある。 当時、ダンス作品のためのサキソフォン独奏を自主版として音源にまとめて、自分のライブで売ったり、組みしたいと思う人々に名刺代わりに渡したりしていた。表現者の集まる場のオーナーに数枚を託してもいて、それが人から人へ渡って、その店のBGMになっていたのだった。自分で蒔いた種だったとはいえ、さすがに驚いた出来事だった。 その店は…
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当番ノート 第31期
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当番ノート 第31期
月曜日から東京に来ている。 今年東京に来るのは、2ヶ月ぶりで2度目。 鹿児島に引っ越してからも東京を訪れる機会は多くて、最近の方が頻度と滞在期間が増えている気さえする。 でも、何かしら用があるから行く訳で、打合せやイベント出店、あと結婚式やどこかへ行くときの寄り道か。 大学生の頃も、東京にはよく遊びに行っていた。 建築系やデザイン系の雑誌に「良い」として掲載されたものや、東京の「今」を自分の目で見…
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当番ノート 第31期
さきほどから家から出かけては戻ってを繰り返している。すでに3往復目だ。そして、僕はなぜかキーボードを叩きはじめた。 もう一心不乱に叩かざるを得ない心境なのだ。あるいは般若心経を写経するしかないのだ。よく分からなくなってきたので、ちょっと落ち着こう。 こうなってしまったのは忘れ物のせいである。ちょっと1泊で遠出をしようと思っていたのだ。はじめは出発してからカメラを忘れていたことに気付いた。次は現金も…
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当番ノート 第31期
自覚がなかったけれど、高校生くらいまでは、ただぼんやりして時間を過ごすことが多かったようだ。その当時、家に帰った後や休みの日は何をしているの? と、人から聞かれても、何か具体的なことが思い出せるわけではなくて、返答に窮していたし、また、今になって当時のことを思い出そうとしても、たしかに何か特別なことをしていた記憶もなくて、なんだか真っ白なのだった。そうした事実をあわせて考えると、昔、わたしは、ただ…
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当番ノート 第31期
今まで二回にわたって昔の映画の思い出話をだらだらと書いたが、今回はその最後。 ただ見るのではなく、よく見るということについて。 私は初めて見る映画はできるかぎり映画館で見るようにしている。(と言っても、時間的制約あるいは経済的な理由で、実はなかなか叶わないが) 映画館で映画を見たい理由は、私にとっては、本質的には小さい頃からの「慣れ」なのかもしれないが、それは置いておいて、少しその理由を考えてみる…
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当番ノート 第31期
舞台上で、どの様な在り方で音を発するのか。 舞台作品への音楽家としての関わりの中では、舞台への楽曲提供以外にも劇場公演に生演奏で参加する事が少なからずあって、当然、作品によって扱いも変わる。演者と並んで舞台に居たり、作品の伴奏者の様に舞台の脇に居たり、舞台には演者のみで演奏者はピットの中に納まっていたり、等々。観客の目に触れる立場という点では、音源を編み演出家に渡す「スタッフ」というよ…
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当番ノート 第31期
染色を始めたころ、科学染料ではない植物性の染料は動物性の布(絹やウール)と相性がよいということを知り、では布ではなく、皮は同じ方法で染められるのか、染めたらどうなるだろうとずっと気になっていました。皮は紛れもなく動物性なのですから、草木染めと相性はよいはず。思いつくとやってみたくてウズウズするのですが、染めるための皮がないし。。。ということでしばらくお預けになっていたのですが。。。 ふと皮製のリュ…
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当番ノート 第31期
飛行機を降りると、適度に湿気を帯びた南国の空気が迎えてくれた。 到着した僕を待っていたのは、ハイビスカスの花や貝殻で出来たレイを持っている現地の人達。 なんだかベタな展開過ぎて、それはもう笑ってしまうくらいに。 まずはレンタカーを借りに、HERTZのカウンターへ。 慣れない英語を駆使して車を借りたら、ひとまずこれから5日間滞在するホテルへ向かった。 車に乗り込んでエンジンをかけたら、とりあえずラジ…
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当番ノート 第31期
自分のペースを保ち続ける。これがなかなかに難しい。食料の分だけ重さが変わっていく荷物を背負い、砂漠や山岳で毎日走っていると、自分のペースといいうのが時折分からなくなる。 もちろん疲労感や呼吸、発汗など体からのサインはあるので、それを基にする。それでも、頭で今日のペースはこれくらいと予測していたら、余力を残しすぎてしっかり走り切れていないということもあった。去年走ったナミブ砂漠の大会でのことだ。ペー…
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当番ノート 第31期
なかなか寝つけない夜には、血液が自分の体内をめぐる動きを感じる。静かに、ゆっくり、トッ…トッ…と音がするような。血液についてこんなことを考えているうちは、まだ眠りに落ちることはできないだろうな…なんてぼんやり思いつつ、眠気の糸口を掴まえるために、ひっそりと呼吸をしながら横たわる。 眠ろうとすると、眠れないという事実に失望を抱いてしまい、心臓の鼓動が早くなって頭が覚醒し、かえって眠りからは遠ざかる。…
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当番ノート 第31期
前回に引き続き、今回もまた映画と映画館の話。 私の今までの人生の中で一番映画館に通ったのは、中学から高校にかけてだった。特に、中学2年の夏休みには、40日間の休みの間に、20本の映画を見に行った(と記憶している)。2本立てや3本立てもあったので、映画館には10回くらいは行ったと思う。 そして高校に入ると、渋谷や三軒茶屋に留まらず、銀座や有楽町の映画館にも行くようになった。また、早稲田や目黒の名画座…
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当番ノート 第31期
ダンサーは、自らの身体で奏でる。 サキソフォンの即興演奏をするようになったほぼ同時期から、知人の声掛け等を介してダンス、演劇など、グループや作品単位で舞台作品への演奏参加をしていた。様々な舞台人達との関わりを続ける中、割と早い段階で、自分の自主的な活動の軸として組みする相手として、コンテンポラリーダンスシーンに居るダンサー達を強く求めているということが解かって来た。 ダンサー達…
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当番ノート 第31期
好きな色は?と聞かれるとたくさんありすぎて困ってしまいます。翡翠の緑色も好きだし、渋い樹脂の灰色も好きだし、バラの深紅色も好きだし、南の島の海のいろいろな青色も好きだし、冬の海の色も好きだし、、、でも、何色であろうと半透明には無条件に惹かれます。磨り硝子、雨の日の曇った窓、トレーシングペーパー、そんなものを通して向こうを見ると、見えるようで見えない不思議さと、ものの輪郭がぼやける感覚になぜかとても…
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当番ノート 第31期
大学院生だった頃の僕には、学校帰りに一人でよく行く映画館があった。 郊外のショッピングモールに入っていた映画館で、いわゆるシネコンてやつだ。 大学から車で30分くらいの距離が考え事をするのに丁度良く、わざわざそこまで出かけていたのを覚えている。 これは学部生の頃からの週間みたいなもので、18時に終わる講義を受けていた僕らは、授業後にレイトショーを見に行っていた。皆はどうか分からないが、月に一度のそ…
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当番ノート 第31期
ひとはよく迷う。道迷いはもとより、会話においてもだ。 話題が迷走するのである。たちが悪いことに話している当人は迷っていることに気づかないことがしばしばある。 よく分からない結論にいたってようやく我に返り、はたと思う。 僕はなんの話をしていたのだろう。 相手の表情を見るに、こんな話をしたかったわけではなさそうだ。そして理解する。 僕は会話迷子だったのだ。 「泣いて馬謖を斬る」という故事に始まり、董卓…
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当番ノート 第31期
さしたる愛猫家でもないわたしが、猫のことについて書くのを、どうか許してくださいますでしょうか…。猫を飼っているわけでもありませんし、猫を引き寄せる特殊な能力を持っているわけでもありません。猫に関してはただの一般人なのです。 いや、もちろん、当事者でなければそのことについて書いてはならんという法はありません。猫経験のごく浅いわたしも、大手を振って、猫のことを書きたいと思います。もし、このノートを読ん…
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当番ノート 第31期
今回は昔の話を、少し。 私は小さい頃から映画が好きだった。映画館にもよく通っていた。テレビで映画がやっていれば、なるべく見るようにしていた、そんな子供だった。 一番最初に見た映画は、おそらくテレビでやっていたチャップリンのドタバタ喜劇だった、と思う。当時はレンタルビデオもなく、映画を見るといったら、映画館かテレビだったので、特に子供時代は、テレビで放映する映画はとても貴重なものだった。今でこそ、『…
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当番ノート 第31期
Toypianorgan(2013) 音楽というもの以前に、音に触れたり、音が生えて来る事物に惹かれる。 普段の音楽制作の範疇では、フィールドレコーディングの類いは制作上で必要になった場合以外は行っていないけれど、録音等を伴わないスタンスで、世の中の音達に耳を拡げて聴き入る「音景探し」の様な事は、散歩や外出先で時間が出来た時、旅先など馴染みの無い土地に居る時等、気軽な状況の時に…
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当番ノート 第31期
食べこぼしで服を汚してしまったことがきっかけで染色をはじめました。材料はほぼ台所で調達しています。 初めはまったくの我流でやってみたのですが、インターネットで「草木染め」で検索すると、詳しいサイトがたくさん見つかったので参考にしました。麻や綿のような植物性の布は、大豆の汁で下準備をする。布を染めっぱなしではなく、染めた後に色止め液に浸けることで色を布にしっかり定着させ、色落ちさせにくくする、など。…
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当番ノート 第31期
オザケンが19年ぶりにCDシングルをリリースした。もちろん購入した。 「c/w」の表記が何とも言えず懐かしかった。 (カップリングウィズの略で、90年代はシングルCDのB面のことをこう呼んでいた) 最近は、amazonやiTunesで購入することが多くなり、CDショップというものに足を運ぶのもめっきり減った。 昔は気になったCDを視聴して時間を潰すことも多く、何時間でもいれる気がしていたのが、 今…
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当番ノート 第31期
前回書いた、考えるへんな人、たいらいくし。彼にインスパイアーされ、トライアルもしてみて、家なしの生活実験を本格的にはじめることを決意した。元々は、東京でやろうと思っていたが、ご縁もあって、京都へ。 たとえ言葉は通じたとしても、関東と関西は何やら文化やコミュニケーションがちょっと違うんでないかい、と感じていたし、おそらく京都に住むなんて一生ないだろうからこの機会に、と国内留学のために京都にしたのだっ…
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当番ノート 第31期
速く走れるようになれば、楽に走れる。 2年半前に走り始めたころは、そんな風に思っていた。 個人競技は自分のがんばった分だけ結果がついてくる。ランニングはその正しい見本だ。個人差はあれども、トレーニングを積んで走れば走っただけ、速くなる。 他人と比べるとどうかは分からないが、僕も以前よりは速く走れるようになった。だからといって、何も楽になってはいない。 極地を1週間走るステージレースに出れば、毎日寝…
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当番ノート 第31期
20年といえば、まあ、それなりの時間です。20年前のこと…思い出せるでしょうか? わたしは小学生でした。そして、そのそれなりの20年のあいだ、ずっと、わたしは長靴のことを誤解しながら生きてきたのでした。 こだわりの強い小学生だったわたしにとって、長靴というものは、野暮ったくて我慢のならないものでした。ぱかぱかして足にフィットしないような気がするし、原色の黄や赤がバカに陽気だし、通気性が悪くていつも…
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当番ノート 第31期
クラリスブックスでは、月に一度読書会を開催している。これは、参加者の方に決められた課題図書を読んできてもらって、いろいろと感想などを語り合うというもので、私もスタッフも参加する。 そもそもこの会は、私が古本屋を営んでいるにもかかわらず、あまり本を読んでいないので、このような会を自ら開催すれば否応なしに本を読むのでは、という、とても利己的な考えから始まったものだ。 店がオープンしたのは2013年12…
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当番ノート 第31期
どうにも、殺風景な写真ばかりを撮ってしまう。 日々行き来する様々な通り道の中に、幾つかの「定点」を見つけて、そこを通りかかる度に撮り続けている。切り取られた画角の中に於いては、各時間帯の光や天候の具合など、固定された場の状況の変化だけが抽出され、それらを見つめ続ける感覚になる。その在り方は場面転換の入らない舞台装置に似ていると思う。 おおよそ、それらに写っているのは通常のスナップ等…
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当番ノート 第31期
少し前から、ときどきゴム版を彫っています。 絵とは違って、「あ!」と彫りすぎてしまうと取り返しがつかなかったり、それもまた面白かったり。 気が短いので、グイグイと強引に彫ってしまい、あとちょっとというところで細かいところがダメになってしまって台無し、ということも多々あります。体力、気力ともに充実して、穏やかな気分のときに彫らなくちゃ、と思いながらまたついつい「・・・あ!」ということをやってしまうの…
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当番ノート 第31期
僕は、色んなところがヘタクソだ。 感情を表に出すのも、本当に聞きたい事を人に聞く事も、自分が言いたいことを口に出すことも。 嬉しいとか悲しいとか怒りとか甘えたりとか、そういったものを人に表現するのが。 周りの目を気にして、余裕があるように見せて、本当は辛かったり大変だったりすることもなるべく外には見せない。 妙なプライドや自己意識が邪魔をする。 それでいて、内弁慶だから尚のことだ。 色んな場所へ出…
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当番ノート 第31期
少年は物書きになりたかった。 漠然とした夢に少し輪郭を加えると、物語を描きたかった。 小説をものにしたい。自分のつくる物語を世に出したい。 少年が人知れずに抱いていた展望だった。 夢を掲げるに至ったきっかけは分からない。分かるのは物心がついたころにはそう強く思っていたということ。 誰かに知られたら叶わないかもしれない。だから誰にも言わなかった。 一種の願い事のような、夜に目を閉じてみる類いの夢に近…
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当番ノート 第31期
考えるへんな人は、ふつうの人とはちょっと違った選択肢をしている/持っている人とも言えるかもしれない。 やはり、東京は、人口1300万超、「人種のるつぼ」のような街が点在していて、多様性に溢れているから、そんな風変わりな人も多いわけだ。けど、その多様性を認めにくいような社会はあるのかもなあ、と思うようになったしまったのはいつからだろう。 ぼくが考えるへんな人に出会うようになったのは、大学を機に沖縄か…
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当番ノート 第31期
朝はいつだってわたしを裏切らない。 中学生だった頃に朝型に覚醒したわたしは、それ以降の人生をずっと、言うなれば、朝と手をたずさえるようにして生きてきた。早朝のまだ静かな時間に、クリアな頭で、のっしのしと勉強やお仕事を進めていく。きっちりと着実に何かが積み上がっていく快い感覚。メールを送ってくる人も電話をかけてくる人もおらず、同僚の気配に気を散らされることもない、すてきな独りの時間。 最近「朝活」と…
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当番ノート 第31期
今回は古本屋の話を。 まず、古本屋にはいろいろな形態が存在する。店舗を持っている店もあれば、ネットだけでやっている店もある。あるいは、デパートや催事場で開催される古書市や古本祭りのような即売会にのみ出店している古本屋もある。さらに、ごくごく少数の顧客のみを相手にしている古本屋、古書目録を独自に発行し、その目録から注文をとっている古本屋。 販売形態を考えただけでも、古本屋という言葉が指し示すものはと…
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当番ノート 第31期
カメラを立ち上げた時のモニターに一瞬残像の様に映る、ぼんやりとした画像を残す方法を知りたい。普段、写真については、なるべく端正な画面構成で撮ろうとする一方、無為の存在感にはかなわない、と実は思っている。 目の前の対象よりその反射や投影、透過に、実体よりその影や背景、空白に、どうにも目耳が向いてしまう。 何が、そんな視点や価値観に影響しているのかと過去を振り返ると、通っていた画塾…
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当番ノート 第31期
絵本を描いています、というと、「まずおはなしを考えて、それに合った絵を描いていくんですよね?」と尋ねられることがありますが、私はそういう順序では描いていません。 落書きからちょっとしたストーリーやおはなしのワンシーンが浮かんだら、そこからすこしずつ膨らませて絵本にしていきます。ストーリーより絵のほうが先なのです。 絵本をつくり始めたころはあまり深く考えず、いきあたりばったりで描き始めて、最後に辻褄…
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当番ノート 第31期
僕は、ひょんなことから2014年の夏に鹿児島に引っ越した。 僕個人としては、”移住”ではなく”引越”、そんな感覚だった。 はっきり言ってしまえば、今も昔も場所にそこまでの執着は無い。 こうやって書くと、冷たいとか強がりだとか言われたりもするけど、 自分が住む土地以外で、面白そうだと思った”最初”の場所が鹿児島だったから。 本当…
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当番ノート 第31期
書き始めてみたものの、逃げ出したくなっているのだ。僕の当番ノートは明日に迫っていたのだった。 もっと先に出すようにと言われながらもこの体たらく。半日後の自分が書いてくれるはずだと一時逃れを重ねていたら、もう掲載前日なのだ。言い逃れのできない現実である。 盗んだバイクがあったら走り出してやろうかとも思うが、盗んでいる時間すら惜しい。そんなヒマがあったら書かねばならぬ。 当番ノートのシステム上、前任者…
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当番ノート 第31期
考えるへんな人 ー 独特の価値観を持ちながら暮らしていて、見方によっては近寄りがたいが、噛めば噛むほどに味わいぶかいスルメのように話せば話すほどのめり込んでしまう人。 前回は、つなぐ人として岡田昭人さんを紹介させてもらったが、今回は彼につなげてもらった人について書いてみようかと思う。ぼくの先輩を紹介します。 現在は、プロのMC/DJ/ナレーターとして「声」の仕事をしているリスケさん。…
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当番ノート 第31期
はじめに断っておかなければならないのは、この世の中には、サンドイッチを愛する人の数だけ「善きサンドイッチ」がある、ということです。いいですか、しっかり頭に入れておいてください。そうすれば、俺のサンドイッチが一番だの、あのサンドイッチは下等だの、そうした不毛な議論に陥らずに済みます。サンドイッチに唯一絶対の正解などないのです。ピース。 とはいえ、ここで、わたしにとっての「善きサンドイッチ」の条件をま…
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当番ノート 第31期
古本屋をやっているので、この先、本がますます読まれなくなり、その結果本が売れなくなるのでは、と少しは不安に思っている。書物という形ではなくても、今ならパソコンやスマホ、あるいは電子ブックで簡単に本を読むことができるからだ。 1995年に、OSとしてインターネットへの接続を標準搭載(正確には追加のバージョンアップで)したウィンドウズ95が発売され、その後1999年にアップルから、比較的安価で可愛い筐…
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当番ノート 第31期
中学から社会人3年目になるまで住んだ地元に、ずっと仲のよかった近所同士の友人が二人いた。 中学は三人とも同じだったけど、その後、進んだ高校も大学も別々になり、 もちろん専攻や生業も全く違ったものにそれぞれ進んだ。 この年頃の男友達同士の常で、学校帰りなんかに、まあ色々と屈託の無い話を三人でしていたのだけど、 今でもよく憶えいているやりとりがある。 自分の思考や志向や嗜好のパターンを考えた時に三人そ…
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当番ノート 第31期
こんにちは、はじめまして。 月曜日当番の、きた えまこです。 まず自己紹介をしようと思い、ハタと自分のことが自分でもよくわかっていないことに気がつきました。そこであわてて数日間、自分の今までのことなど思い返してみたのですが、、、 生まれたのは香川県高松、でもほとんど記憶はありません。すぐに大阪に引っ越し、一度はシンガポールにも住んだりして、小学校は3回転校しました。ほぼ大阪育ちですが、今は以前、数…
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当番ノート 第31期
“世界中のすべての時計を二秒ずつ早めなさい。誰にも気付かれないように。 ー オノ・ヨーコ” 鹿児島でよく訪れる食堂の扉に、いつからか書かれていた言葉だ。 誰の言葉なのだろうかと気になってはいたけれど、誰に聞く訳でもなくしばらく時間が経った。 今回、アパートメントに寄稿するにあたって、何を書くべきかとても悩んでいた。 名古屋から鹿児島へ向かう車中で、あれこれ考えたりもしたがて…
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当番ノート 第31期
夕日を追いかけていた。読み方も知らない町で、僕は夕暮れと夜に境目がないことを知った。黄金色に染まったコンクリート塀の間をひとりで進む。子どもの頃の話だ。アスファルトの匂い、長く伸びた影、湿り気を帯びた暑さ。僕はどこまで行けるだろうか。答えを探していた。見知らぬ風景に身を置くことに感じる不安と期待。夕暮れと夜のようにふたつの感情にも境目はなかった。 どうやって帰ったのだろうか。記憶がすっぽりと抜け落…
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当番ノート 第31期
へんな人。見方によっては近寄りがたいが、噛めば噛むほどに味わいぶかいスルメのように、話せば話すほどのめり込んでしまう人のこと。 そして、独特の価値観を持ちながら、暮らし、働いてるへんな人が、考えるへんな人。 そんな「考えるへんな人」を知ったり、会ったりすると、「こんな人もいるんだ」と、世の中の選択肢みたいなもんが広がるような気がしてて、そういう人の存在は貴重だなぁと。 ということで、2~3月の当番…
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当番ノート 第31期
その頃わたしは冷暖房のない部屋に住んでいた。2月なんかに1日中家で仕事をしたりすると、どんなに分厚いフリースにくるまっても、ブランケットを何重に巻きつけても、日が翳りはじめる頃には、身体が芯まで冷えた。 銭湯を楽しむようになったのは、たぶんその部屋に住んでいたときからだと思う。東京は北千住の、下町の商店街からひとつ路地を入ったところにあるその家は、5畳の広さしかない1Kだったけれど、東向きの気持ち…
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当番ノート 第31期
東京の下北沢でクラリスブックスという古書店を営んでいる。 店をオープンして3年が経った。月並みな言い方だが、ほんとに、月日が経つのが、早い。 私は現在42歳だが、店をオープンした時期に、私より一回り年上の人から、40代はほんとに早いよ、あっという間だよ、と言われたのを思い出す。 業種は全然違うが、その方も私と同じくらいの年齢の時にお店を立ち上げたようで、なるほどそういうものかな~、とぼんやりと心の…